このブログはジュリア・レダ議員のオフィスでインターンをしている Rio (Twitter:@ld4jp) が書いています。

2015年10月5日、TPPが大筋合意に至った。その交渉過程はほぼ完全に非公開であり、交渉中に渡りWikileaksのリークがその内容を知る貴重な情報資源だった。

(CC BY 2.0) 2013 DonkeyHotey Stop TPP - Total Peasant Pacification
TPPが合意に至る前、TPPが日本へもたらす影響を懸念する運動が湧き起こった。その多くは農業団体からであったが、TPPがインターネットの自由を脅かす危険性に声を挙げ、インターネットユーザーの権利を守ろうとするアクティビスト達もいた。MIAU,クリエイティブコモンズジャパンthinkC, thinkTPPIPらはその一例だ。その努力の甲斐なく、彼らが反対した三つの著作権条項はすべて最終文書に盛り込まれることになった。以下は日本のインターネットアクティビストたちが廃止すべきと声を挙げた著作権三要件の概要である。ひとつ日本独自の論点として、日本のインターネット議論は「オタク」カルチャーとつよく結びついている。そのためTPPの知財条項へ警鐘を鳴らす議論はTPPがいかにオタク文化を壊す危険性があるかということに集中している。

著作権保護期間延長

©DisneyTPP はミッキーマウス法を世界に押しつける…

Wikileaksによってリークされた最終文書の条文QQ.G.6によれば、TPPによって日本の著作権保護期間は現行の著作者の死後50年から死後70年へ延長される。日本の著作権の専門家である福井健策氏は、著作権の延長は日本の知財産業における貿易赤字を拡大することにつながると指摘する。現在、著作権ビジネスを通した日本の年間貿易収支は6000億円を超える赤字であり、その60~70%がアメリカとの貿易によってもたらされている。死後70年の保護期間はすでにヨーロッパの多くの国で導入されている。しかし、この延長は日本のような国の貿易収支に大きな損害をもたらす。なぜなら、アメリカにおいて外貨を稼いでいるコンテンツの多くが1920年代や1930年代のものである一方(ミッキーマウス、くまのプーさん、スーパーマンなど)、海外で人気を博している日本のコンテンツはその多くが最近生み出されたものであるからだ(ポケモン、ドラゴンボール、セーラームーンなど)。保護期間の延長によって守られるのは古いコンテンツのみであるため、日本は知財貿易によって不利な立場に置かされるのである。

©青空文庫青空文庫

さらに保護期間延長は日本の文化の繁栄にも悪影響を及ぼす恐れがある。多くの非営利的研究、教育、そして文化関連のプロジェクトがこの条項によって停滞すると予想されるからだ。そのようなプロジェクトの例として、たとえば「青空文庫」が挙げられる。青空文庫はアメリカのプロジェクトグーテンベルクやヨーロッパのヨーロピアーナと同様、著作権の切れた日本語の文献を収集し公開しているデジタルアーカイブだ。著作権保護期間が延長されれば、青空文庫は数十年前に著作者が亡くなった作品の権利者を特定するのに多大な資金と労力を費やさなければならなくなってしまう。

このように著作権がまだ存続しているにもかかわらずその権利者が特定できない作品を「孤児著作物」という。保護期間延長は孤児著作物数を増加し、貴重な文化遺産が公共の利益のために使われることを難しくする。著作権とはそもそも、クリエイターへのインセンティブを与える意味合いと、作品それ自体が公共の遺産として公共の利益に奉仕する意味合いの両方をバランスするためにつくられた。この観点から見れば、著作権保護期間延長は日本の将来にわたる文化的繁栄にネガティブな影響をもたらす可能性が強い。

法定賠償金制度―実際の損害額にそぐわない処罰―

最終文書の条文QQ.H.4によれば、TPP以降、日本の司法当局は実際の被害損額が証明されていなくとも、みずからの裁量で著作権侵害に賠償金を課すことができるようになる。この賠償金を「法定賠償金」という。条文第7項、第8項、第10項は、司法当局はその権限において著作権侵害に対し「警告的な又は懲罰的な賠償を含み得る追加の賠償」を課すことができる、と定めている。この条項は実際の著作権侵害に不相応な膨大な額の賠償金請求を可能にする。

Christopher TorresNyancatの動画をアップして賠償金?

2012年、TPPが合意に至る前、日本はオンラインの著作権侵害を刑事罰化した(「著作権侵害」とされたのは私たちが日常ごく普通に行うネット活動、たとえば動画のダウンロード、DVDやCDのコピー、DRMを回避すること…などだ)この法制定の裏には、アメリカの著作権民事法の厳しい懲罰を刑事法で実現しようとする政府の思惑があった。10年以下の懲役または1000万円以下の罰金という刑罰を課すことにより、日本は既に1作品の著作権侵害あたり$150,000(約1800万円)という巨額な賠償金を制定していたアメリカに並ぼうと考えたのである。TPPQQ.H.4条により、日本はアメリカのような罰則を刑事罰だけでなく、民事罰でも法制化しなければならなくなった。この賠償金がいくらになるかを決める権限は裁判所が持っているため、ユーザーは裁判が始まる前にいくら払わなければならないか知る術はない(そしてそれには実際に著作権侵害で起こった被害総額を大きく上回る可能性が高い)。この法的不確実性と不均整性は、研究者、IT起業家、そして多くのインターネットユーザーに萎縮効果を与えるだろう。

著作権侵害の非親告罪化-コスプレと二次創作で逮捕?-

(CC BY-NC-ND 2.0) 2015 Kamil Dziedzina誰もがコスプレできる社会を!

悲劇はこれだけにとどまらない。TPPにより、著作者の申し立てなしに著作権侵害を告訴できてしまう、いわゆる「非親告罪」が刑事法に盛り込まれることになった。これはアニメ・マンガオタクにとっては重大な脅威だ。二次創作文化とは切っても切り離せない日本の「オタク」カルチャーは、法の「グレーゾーン」で栄えてきた。現行の日本の著作権法では著作権侵害は権利者が申し立てをしたときのみ罰することができる。コスプレや二次創作は法に抵触する危険がありながらも、権利者に「お見逃し」を受けていた───権利者も、彼らなしにはやっていけないことをよく分かっていたからだ。条文QQ.H.7の6項(g)はこのwin-winの関係を壊してしまう。この条文が施行されれば、いかなる「関係当局」も、著作権者の告訴なく自発的に法行動を起こせるためだ。アメリカ型のフェアユース制度は日本の著作権法には存在しないため、悪意ある第三者に告訴されてしまえば、ユーザーは膨大な額の罰金を課せられるおそれがある。条文はこの侵害は「意図的かつ商業的な規模」でなければならないとあるが、「商業的な規模」とはどの程度なのかの規定ははっきりとしておらず、すべては批准と国内法制定過程に任せられることになる。


日本の著作権法は近年、ユーザーに不寛容なものになり続けている。2012年、日本の著作権法は違法ダウンロードの刑事罰化という大幅なアップデートダウングレードをした。この法改正にはDRM回避の違法化という新要項のおまけつきだった。そして、この改悪著作権法の施行から3年がすぎた今日、TPPがやってくる。それは、文化遺産が誰にでも触れられるようになることを妨げる、著作権保護期間の延長とともに。それは、インターネットユーザーを法的不確実性と不均整性へとさらす、法廷賠償金制度とともに。そしてそれは、著作権者からなんの正式な申し立てなくオンライン活動を告訴できてしまう、非親告罪化とともに。それだけではない。アップロードされたコンテンツに対するISPの責任の強化(これは私企業が「削除されるべき」コンテンツを選択できるという言論の自由にかかわる問題を引き起こす)、プライバシー侵害の危険性そして不正の告発への萎縮効果など、インターネットにおける自由の原則を根底から揺るがす条文を、TPPは持っているのだ(いくつかの項目は日本で既に法制化されてしまっているが)。山田太郎参議院議員はいう。TPPによって、日本の著作権法は「世界でもっとも厳しい法律になる可能性がある」と-。

「世界でもっともデジタルに強い国」であるはずの日本が、なぜこのような信じられないほどユーザーに不寛容な著作権法を受け入れることができるのだろうか?TPPの著作権条項が日本の文化を壊してしまうのを阻止しよう!

 
mikuhatsune

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